スペシャルインタビュー

SDGsオンラインプラットフォーム「Platform Clover」開発事例 

2015年9月に国連サミットで採択された行動計画「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で宣言された国際目標「SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標」。「17のGoal(目標)」と「169のTarget(具体目標)」で構成されるSDGsの達成にあたり、さまざまな企業・団体が活動しています。オンラインプラットフォーム「Platform Clover」は、SDGsの目標達成に資するプロジェクトや活動を発信・検索するために、多くの人が手を取り合えるよう開発されました。ニーズやシーズのマッチングを通じてSDGsの取り組みに関する輪を広げ、協働・共創の場を提供することを目的としてデザインされています。今回は、Platfomr Clover プロジェクトを牽引する一般社団法人サステナブルトランジションの代表理事・川久保俊氏と副代表理事・原口真氏にお話を伺いました。

一般社団法人サステナブルトランジション
代表理事/法政大学デザイン工学部建築学科 教授 

川久保 俊

[Platform Cloverとは]
あらゆる人が参加可能な産官学民横断による日本初のSDGsアクションを促すオンラインプラットフォーム。それぞれがSDGsに関する知見を持ち寄りながら、共通の課題や関心事を共有し、さまざまな社会課題の解決を促す場として活用できる。

取材/2023年5月

SDGsとの出会い

― お二人とSDGsとの関わりについてお聞かせください。

川久保:私は建築環境工学、都市環境工学をベースにしつつ、建物や都市のサステナビリティに関する研究に取り組んできました。2015年に「SDGs」という言葉が出てきた時、“持続可能なまちづくり×SDGs”というかたちでビジョンを描くことができれば、広く社会貢献できるのではないかと考え、SDGsを原動力としたまちづくりに関する研究をはじめました。当初、SDGsに対する反応は、誰に聞いても「?」でしたが、2017年くらいからSDGsがまちづくりに使えるという声が出てきて、全国から講演の依頼が増えました。講演依頼の数が急増したため、次第に本業の研究や教育を圧迫するようになり、バランスを取りたいと思っていた時に、原口さんと出会ったのです。SDGsは盛り上がってきたけれども、本質をわかって活用できている人が少ないという点で意見が一致し、ならば、SDGsの取り組みを関係者自らが互いに紹介できるオンラインプラットフォームをつくろうと意気投合しました。

原口:私はMS&ADインターリスク総研株式会社で、主に大企業の環境に関する取り組みの調査やコンサルティングに関わっていました。2000年初頭から生物多様性、自然について、企業がどう取り組むべきか、という議論が国際的に高まり、2018年の秋頃、岩手県釜石市の市役所から「SDGsをやりたい」という相談が営業所に入ったことがきっかけで、私のもとへ話が来てお手伝いをしました。それを機に、SDGsで地域を活性化する地方創生の仕事が生まれ、川久保先生同様、週に3回ほど全国に出張する状態でした。このままだと、自分の健康や生活がサスティナブルではないと(笑)、川久保先生とも話して、初歩的なことを自分たちで勉強できて、情報発信できる場所が必要だろうということになりました。一般的なSDGsの解説本は溢れているので、そこではなく、全国で少しずつ増えてきた挑戦的な取り組みに光を当て、模範事例として紹介することで、頑張っている人や企業が助け合える状況をつくることができれば、お互いスパイラルアップしていくだろうと、そう話したのが発端です。

川久保:SDGsに取り組みたい人はたくさん出てきましたが、我々としては、一部の方のみが利益を得ることなく、プラットフォームとしてなるべく利用者の負担を軽くする一方、賛同してもらえる団体にはスポンサーとして協賛・協力を呼びかけながら、よりよい潮流を作っていきたいと考えています。

課題は、どこにあったのか?

― Platform Clover は、Webサイトのリニューアルを行いましたが、課題はどこにあったのでしょう?

UPFT:2020年に立ち上がった当初のサイトのデータを見ると、まず、あまり情報更新されてないように見受けられました。情報鮮度が良くないというか、情報更新があまりされていないように見えたので、これはなぜだろう?という疑問からのスタートでした。

川久保:最初のベンダーさんとはかなりやり取りを重ねて、何とかイメージを擦り合わせ、半年間ほどかけて方向性を決めたのですが、形にはなったものの、課題が多くありました。

原口:リリースはできたけれど、その後の開発において、川久保先生の中にあるアイデアを活かせなかったこともあり、ユーザーが使ってみたい、目標を達成したいと思えるサイトにすることが難しかったです。

UPFT:最初に課題点に対する疑問があったので、こちらから好き勝手に提案するのも違う気がしましたし、そもそもSDGsに対する専門的な理解があったわけではないので、まずはWebサイトとして、コミュニケーションの場としてどうあるべきか、ということを考えました。お二人の話はどんどん進化していくので、どこを捉えて具現化すればいいのか、そこは膝を突き合わせて話すべきだと考え、まず川久保先生が何をしたいのか、どうしていくべきだと考えているのかを徹底的に話し合いました。

川久保:UPFTさんに頼んでいちばん有り難かったのは、私たちがイメージしていることを100として伝えると、それが120、130、150になって返ってくるところです。ユーザーに見てもらうための新規機能の提案までしていただいたことは、プロフェッショナルなご対応だと思いました。コンサルティングをしていただいているような印象で、私たちのやりたいことを聞き出して、そこに付加価値を加えてご提案いただき、具現化していく。とても理想的なチームワークのもとで進められたと思います。

原口:通常は、うまくいかなかった案件を引き継ぐということは気が進まないもので、難しいことだと思いますが、そこを引き受けて、川久保先生のアイデアを拾い上げて言語化し、さらには、契約前にもかかわらず、既存の問題点を指摘した提案書まで提出していただきました。もう感謝しかないです。

チャレンジ

― 開発サイドとしては、どこがチャレンジだったのでしょうか?

UPFT:私たちとしては、SDGsというテーマを扱うこと自体がチャレンジでした。明確な正解がないテーマでもあるので、Webサイトのつくりは分かりやすくベーシックなものにしようと考えて提案・設計をしています。一般的なコミュニケーション機能としての「いいね」の追加や、人と人をつなぐ「パートナー機能」「メッセージ機能」といった箇所は、UI的によく見かけるものとして、操作で煩わしさを感じないようにし、テーマ自体に本腰を入れてもらう考え方で設計しています。通常はビジネスのワークフローを理解した上で、それをWebに置き換えるとどうなるか、と考えますが、今回のケースは、Webサイトそのものが事業であり、何が成功になるのか、を探りながら進めていったので、苦労しました。当初は何が正解なのかよくわかりませんでしたが、開発サイドとして何かできることがあるのではないかと考え方を切り替え、提案した経緯があります。

原口:そういう形でアプローチしていただかないと、おそらく川久保先生のアイデアを活かせないですし、お客様の言うとおりに対応しますというスタンスでは、先行事例がないのでうまくいきません。

UPFT:言われたとおりに作るのは簡単ですが、今回は仮説を立てざるを得なくて、それを検証していく形で進めました。マネタイズが難しい領域だという情報もあったので、いろいろなアイデアをいただきながら、できるかぎりコストを抑え、要らない機能は作らないと、そう提案した点は、チャレンジだったと思います。

Platform Cloverは、何を可能にするか?

川久保:「Platform Clover」は、それぞれが取り組みを発信し、各地に眠っている素晴らしい先進的な活動にスポットが当たることで、それがモデルケースとなって各地に広がり、さらにより良い取り組みとなって、新しい情報が集積されていくという好循環を目指しています。企業がフォーマットに合わせて情報を入力していくと、自動的に自社のポイントや、どういう情報発信を行えば良いのか、に気づけるような構造にしています。2030年や2050年という目標年に向けて、どういう企業になろうとしているのか、どんなプロジェクトを立ち上げ、どのような新技術・新規事業に取り組もうとしているのか、そうした未来に向けた取り組みを発信することで、採用や人材募集が有利になることも知っていただきたいです。「Platform Clover」のフォーマットは、そういう取り組み項目を設けることで、企業が注目されるようになる仕組みです。そのために、自己PRができるYouTube動画を埋め込めたり、画像を差し込んだり、活動を共にする仲間を募ったり、多様な機能の追加も進めています。

SDGsの本質

川久保:SDGsを「ISO(国際的な標準規格)」のように捉えている企業がありますが、ISOは項目を達成しないと認定されないのに対し、SDGsには取り組み方にルールがありません。取り組みを行わないと法律違反になるわけではありません。SDGsは共通言語なので、それをうまく使いこなし、自分たちのビジョンを説明することで共感が得られ、応援される。つまり、選ばれる企業になるわけですが、その点がなかなか伝わらず、理解していない企業ほど、「17のGoal(目標)」に対する評価表を作って、全部やっていますとアピールしています。しかし本来、SDGsは言語なので、17の言葉を紡いで自分たちのストーリーをどう創っていくかということが重要です。自分たちは何を強みとし、どういうビジネスをしていきたいのか、そのビジョンとストーリーを、SDGsという言語を使って組み立てていくことが重要なのです。SDGsが言語といわれる理由を理解していないために、自分たちの行動を伝える言葉になっていないケースが多くみられます。

原口:法律に対応するような感じで、コンプライアンスで全部達成しなければいけないと考えているところは多いですね。

川久保:「Platform Clover」でどういう企業の活動が支持され、共感を得られるのか、先例をみていただきたいです。これまでは地方の学生が大都市の大学に入学し、そのまま大都市の会社に就職して地元に戻らないケースが多かった

わけですが、この流れに変化が生じつつあります。SDGsによる地域貢献を考え、きちんとPRしている中小企業が各地に出てきたことで、地元にそういう企業があるなら就職したいと考える学生が増え、地方回帰の流れがわずかではありますが生じ始めています。さらに、そもそも都会に出なくても、地方の大学で学び、その地域で就職する動きも出てきています。つまり、SDGsという言語を使って、未来世代に対してPRできないと、大学も企業も生き残れなくなります。

原口:持続可能ということを、世の中を良くするエコ活動の延長と捉える方が多いですが、そうではなく、企業の存続可能性に影響するものだと気づいてほしいです。今後、SDGsを使いこなせない企業は、若い人から選ばれません。「社員にやさしい」「環境にやさしい」と書いてあるけれど、本当のところ世の中にどうインパクトを与えたいのか、が伝わってこなければ、中途半端なやさしい会社にしか見えず、選ばれない。新しいことを提案し挑戦していかないと、それはリスクになります。企業としての本気度が問われていくと思います。

川久保:サスティナビリティとは、エコな活動をして終わりではなく、企業の経営に直結するものです。もう少し視野を広げてSDGsを自社の存続可能性を高めるツールとして使ってほしいと提案しています。

次のステージへ向けて

― 今後の展開については、どのようにお考えでしょうか?

川久保:Platform Cloverという「場」は改めてでき上がりましたが、今度は想定以上にSDGsを使った外部発信の方法がわからないという声が多いので、共感を呼べる情報発信の方法やパートナーシップを広げる方法等をお伝えする講座も併せて提供していくことを考えています。AIによるマッチング機能についても、コンテンツやユーザーが一定数に達しないと本領を発揮できないため、ユーザーをより多く獲得し、マッチング機能をフル活用できる形にしていかなければなりません。

原口:いろいろなアイデアはありますが、中核となるのは「Platform Clover」です。ユーザーはこのプラットフォームを活用してそれぞれが発信することで、改めて自分たちの取り組みを客観的に見直し、多くの人に伝わるよう工夫するトレーニングにもなります。自分たちの活動をSNSで発信するというのは、意外と難しくて、そのレベルアップを図る研修要素も今後は必要となるでしょう。これまでの経営者は、環境や地域社会のことは考えなくても済みましたが、現在はそれが許されない時代です。環境や社会問題をどう経営に取り込み、経営の強みにするにはどうすれば良いのか、SDGsはこのことを問いかけており、その答えをいち早く出した会社が成長しています。

川久保:SDGsの正式タイトルは、「Transforming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ)」です。つまり、サスティナブルな社会に変えていくために、みんなで変革しようということです。

原口:Transforming our worldという言葉は、日本人にはなかなか馴染みがいない言葉かもしれませんが、海外企業では、全く違う業態への転身や異分野企業の買収は、株主から評価されます。ただ、日本にも魅力的な挑戦をしている経営者はたくさんいて、地域で頑張りながら、従業員もお客さんも幸せにしている企業があり、そういう中小企業に光が当たっていくと面白いと思います。

川久保:日本には世界的にみても創業100年以上の長寿企業が多いですが、それは時代の要請に合わせてビジネスを変化させながら、地域や顧客から「選ばれ続けている」からだと思います。そのような企業・団体を応援し続けたいと思っています。

原口:100年続けていても、変わっていないわけではなくて、しっかりトランスフォームしている。だからこそ残っているので、そこが重要ですね。

どうも、ありがとうございました。